認知症は難しい、どのように対応していいのかわからない。
そんな声が介護の現場では良く聞こえてきますが、どこの部分が難しいと感じるのでしょうか。
認知症ケアでは、何か道具を使うわけでも専門的な機器を使用して援助するわけではありません。
認知症ケア専門士という資格はありますが、資格が必須ではありませんし、介護施設でも無資格の職員が対応することもよくあります。
誰でも対応できるはずなのに、認知症ケアが難しいと言われる理由を考えてみましょう。
認知症ケアに正解は無い
ケアのヒントになるものやガイドラインはありますが、認知症ケアに正解はありません。
厚生労働省も認知症施策として認知症の方に対する考え方やガイドラインを公表しています。
厚生労働省リンク:認知症施策
最近ではユマニチュードなど認知症ケアに関する本やマニュアルが溢れていますが、どれもその通りにすれば必ず上手くいくというものではありません。
100人いれば100通りの正解があるのが認知症ケアです。
認知症の方にはこうするのが正しいと思い込んでいると、上手くいかなかった時に難しいと感じてしまいます。
しかし、上手くいかなった時に色々な方法を試してみて、その方に合った方法を見つけていくのも認知症ケアもの醍醐味とも言えるでしょう。
見た目では症状がわからない
「あの人は認知症だから…。」と周りが勝手に判断する良くない風習は、介護施設の中でもまだまだ残っています。
ケガであれば傷を見ればわかりますし、熱があれば風邪かな?と病院に行ったり薬を飲んだりして対応しますが、認知症の場合は見た目で判断することが出来ません。
少し忘れっぽいだけの人であれば、私達の中にもたくさんいます。
もちろん、それは認知症ではありませんし「ただちょっと忘れただけ」です。
しかし、高齢者になればなるほど、このちょっとした物忘れで認知症というレッテルを貼られてしまいます。
仮に本当に認知症であったとしても、普通の日常生活には問題が出ないケースも多いので見た目で判断できないのも認知症ケアを難しくする1つの要因です。
認知症と一言でまとめていますが、様々な種類があります。
中には、正常圧水頭症など治せるものもありますので、周囲が判断するのではなく、認知症の専門医に受診をして診断を貰ってからでないと正しい認知症ケアは出来ません。
思い込みではなく、医師による診断結果を貰うことが認知症の第一歩です。
認知症というレッテル
病気に対するネガティブな意味のレッテルは「スティグマ」と呼ばれます。
これは認知症の方に限ったものではありません。
ADHDや精神疾患、エイズ、最近だとコロナに関してもこのスティグマは強く影響します。
「精神疾患を持っている人だから、心の弱い人なんだ」
「コロナになったという事は、毎日遊び歩いていたんだ」
こんな風に、勝手な決めつけで思い込んでしまうのがスティグマです。
こうなってしまうと、正常な目で見る事ができなくなってしまいます。
特に認知症に対してスティグマは強く働く傾向があり、医療や介護に関わる専門職であってもこのようなスティグマを持つ人は少なくありません。
「認知症ですぐ忘れるから、上手く言いくるめよう。」
「どうせ忘れるのに、説明しても無駄。」
「すぐ忘れるし、何もわかってないだろう。」
このような認知症を一括りにしたイメージやスティグマが、認知症ケアを難しいと感じさせ、苦手意識を作ってしまっていることもあります。
認知症という自覚が無い
私達が風邪を引いた時には、自分で風邪を引いたなと自覚することが出来ます。
しかし、認知症の場合はハッキリとそれを自覚することができません。
認知症の初期症状であれば、「何かがおかしい」と違和感を感じることがあると言われていますが、ほとんどの場合は自分が認知症だと認識する前に進行してしまいます。
例えば、あなたが糖尿病になってしまい、インスリン注射が必要だと言われた自分の病状を理解してその治療を受け入れるでしょう。
しかし、認知症が進行してしまった場合は自分の病状を理解することが難しくなります。
あなたは認知症ですと言われても、「別になんともないし、いつもと変わらない」と自分で思っていたら、受け入れることは出来ません。
周囲から見てどんなにケアが必要な状態だとしても、本人が困っていなければ、そのケアは必要ないと思ってしまいます。
ケアをする側と認知症の方との間に、このような溝が出来てしまうのが認知症ケアを難しくする要因です。
自分は大丈夫、困っていないと思っている方に対して無理にケアをしようとして嫌がられたり拒否されたりするのは当たり前です。
まずは相手が何に対して困っているのか、何をして欲しいと思っているのかを考えていくと、少しずつ介助を受け入れてくれるようになるでしょう。
認知症の病状がわからない
介護の現場では、よく相手の立場になって考えましょうと言われます。
風邪や炎症から来る熱の辛さや、腰や膝、傷の痛みは理解しやすく、どうすれば楽になるか想像しやすいですが、認知症の場合は中々その想像が出来ません。
記憶障害などの症状を知識としては持っているものの、実際に自分が経験しているわけでもなく、その症状も一貫していないことが認知症ケアを難しくしているのです。
相手が「これが出来なくて困っている」「こうしてくれると助かる」と明確に意思表示をしてくれていれば、ケアもしやすくなりますが、そもそも本人が何に対して困っているかがわからないことの方が多いでしょう。
なので、ケアをする側としては「こうしたら楽になるかな」「これに困っているのかな」と想像しながら対応することになります。
対応1つで相手が怒ってしまったり、逆にとても喜んでくれたりするので、その人に合う方法を一緒に探していくのが一番の近道です。
最初のうちはどうしていいのか戸惑うことも多いと思いますが、経験を積むことで段々と相手が何に対して困っているのかを理解できるようになり、想像できる幅も広がります。
「何回か対応したけど、難しくてダメだった。」ではなく、1人の方と何度も接して、相手の表情、仕草、言葉に隠されたメッセージを汲み取る努力が必要です。
まとめ
冒頭でも言いましたが、認知症ケアに特別な資格や道具は必要ありません。
相手の考えていることを読み解く想像力や、感性が求められる分野です。
感性やセンスで片づけてしまうのはあまり良くありませんが、こればかりは最初から身に着けている人もいれば、そうでない人もいるのが事実です。
資格も経験も無い介護士が、誰のいう事も聞いてくれない認知症の利用者さんの対応をしたら、すんなり上手くいった…なんてことも良くあります。
しかし、センスが無いからと言って諦めないでください。
このセンスや感性は、後からでも十分培うことが出来ます。
認知症の方に対する知識を得たうえで、実際に様々な認知症の方と接して経験を積むことで身につくものです。
今は苦手でも大丈夫、焦らずにゆっくりと接して経験を積んでいきましょう。
コメント