今回は、介護士にとっての“お客様”は誰なのかといった問題について考えたいと思います。
え?そんなの利用者さんがお客様に決まってるじゃん!
そう思う介護士の方がほとんどだと思います。
では、本当にその利用者さんが望む援助が出来ていますか?
その援助は、家族やケアマネージャーからの指示で本人は嫌がっているという事はありませんか?
私達介護士は誰を優先して、どう行動すべきかというお話です。
介護士にとってのお客様
これは主に施設型の話になってしまいますが、介護士にとってのお客様は利用者さんとその家族がお客様と言えます。
優先順位をつけるのであれば、最優先すべきは利用者さん、その次に利用者さんの家族です。
しかし、介護施設では本来優先されるべき利用者さんではなく、その家族からの要望に振り回される事が多々あります。
例えば、利用者さんは自分で歩きたいのに、転倒したら困ると家族からの要望で椅子に座りっぱなしで自由に歩く事を許されない。
普通の食事を食べる能力があるのに、家族が誤嚥を恐れて刻み食や柔らか食に変更される。
私達介護士としては、利用者の希望や要望に沿って援助や介護サービスを行うはずです。
しかし、必ずと言っていいほど介護の現場では家族の介入が必要とされ、それが当たり前になっています。
もちろん、認知症やその他の障害で自分で判断が出来ないのであれば仕方ないかもしれません。
そうでない場合は、基本的には利用者さんの意思を尊重したサービスを行うはずなのに、どうしてそれが出来ないのでしょうか。
介護施設にとってのお客様
介護士にとってのお客様は利用者さんですが、介護施設にとっての一番のお客様は誰になるでしょう。
本来であれば介護施設もケアマネージャーも利用者さんを最優先すべきですが、家族を優先する傾向にあります。
そうなってしまう一番大きな原因はお金です。
施設を利用する費用を誰が支払うのかによって大きく変わります。
入居する本人が全てのお金を管理し、家族はあくまでも保証人という立場の利用者さんは基本的に全て本人が決定しますが、お金の管理を家族に任せている方ほど、決定権を家族に握られてしまうのです。
お金を支払うのが家族だと、施設側も家族の要望を優先するようになり、本来優先されるべき利用者さんは二の次になってしまいます。
利用者さんを優先しない事で起こる問題
利用者さんを優先しない事で起こりえる問題を大きく3つにまとめています。
本人の意思を尊重しない援助
先述した通り、利用者さんの意思を尊重しない事で本人のやる気や生きる目的を失ってしまいます。
本当はもっと歩きたいのに、もっと食べたいのに介護士にそれを訴えても「家族から言われているのでダメです。」の一言で終わらせられるのはハッキリ言って異常です。
介護の仕事を長くしていればしているほど、この感覚は薄れていきます。
とても安いとは言えない金額を支払って介護施設に入っているのに、お金支払った本人の要望が通らない。
これは、利用者さんを簡単に絶望的な気持ちにさせる行為です。
家族の意見や要望ばかりで利用者さん本人の希望が通らない援助は、本人のやる気や生きる目的だけでなく楽しみも奪いかねません。
ADLの低下
転倒を極度に恐れる家族からの要望で、本来ある能力に制限を掛けられている利用者さんもよく見かけます。
歩行器を使えば歩けるのに車いすにされる。
立位になんの問題も無いのに、立ち上がって転倒するからという理由で勝手に立ち上がらないようにと言われる。
仮に立ち上がろうものなら、「○○さん!転ぶから立たないで!」と介護職員が飛んでくる。
割と介護施設でよく見る光景ではありませんか?
しかし、その結果はどんどんADLが低下していき残存能力も失われて重介護者となっていきます。
認知症の周辺症状の悪化
認知症の家族からよく言われるのが「母は認知症なので、寝てるとき以外はずっと介護士の目の届く場所で過ごすようにしてください。」という要望です。
その結果、何時間もずっと介護士の目の届く場所で椅子に座りっぱなしの状態でテレビを見続けるようになります。
部屋に帰りたい、横になりたい、ちょっと向こうに行きたい。
そんな些細な希望もほとんど叶わず、ずっと座りっぱなしでは刺激も無くストレスも溜まっていくのは当たり前です。
その結果、最初は穏やかな認知症の方でも周辺症状が悪化し暴言や暴力行為、徘徊、物を投げるなどの問題行動を起こすようになり援助困難な人して見られるようになっていきます。
介護士は最後まで利用者さんの味方でいる事が大切
では、この問題をどうやって解決していけばいいのでしょうか。
本人の意思だからと家族の要望を無視して援助を行うのが正解なのでしょうか。
実際にそれを行った場合、大問題になるのは間違いありません。
仮にそれで亡くなってしまったり、怪我をしてしまったりしたら訴えられる事も考えられます。
そもそも、家族との交渉は介護士の仕事ではありません。
施設長やケアマネージャーの役割ですが、このような仕事は面倒がって中々動いてくれない事がほとんどです。
しかし、それでも利用者さんの情報や、訴えを伝えていくのは介護士の役割でもあります。
仮に、その要望が中々叶えられなくても「家族に伝えていますよ。」「交渉してくれてますよ。」そう伝えるだけでも利用者さんの気持ちは大きく変わります。
そして、施設長やケアマネージャーに「あの話はどうなりましたか?」「家族さんと話ましたか?」と積極的に聞くことが大切です。
忘れられないように、記録に「○○さんから○○したいとの要望があったので施設長に報告し、家族に連絡して頂く。」と残すのも効果的な方法になります。
最後に
お客様が誰なのか、誰のための援助を行うかを明確にする事はとても重要です。
知らず知らずのうちに、家族の要望主体の援助になっている事は多々あります。
利用者さん本人はどうしたいのか、どんな援助を求めているのかを聞く事で本当に必要な援助をする事が出来るのです。
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