人との約束は守る。
嘘ついてはいけない。
人に暴力を振るってはいけない。
周りに迷惑をかけてはいけない。
私達はこのように社会で生きる上で、当たり前のルールを守って生活を送っています。
このルールを守れているのは、正常な脳の働きがあってこそです。
しかし認知症になってしまうと、脳の障害により社会性が著しく低下する場合があります。
世間一般から見て「正しい」とされていることが、認知症を患っている本人からすると「正しくない」「わからない」「不快だ」と感じられてしまうことは少なくありません。
認知症ケアでは、「正しいこと」を無理に押し通そうとすると、介護士も利用者さん本人も苦しくなる場面が出てきます。
正しいことのはずが認知症の人にとっては、正しくないこともあるのです。
正しい事=認知症の方の正解ではない
認知症の方に対して、正しい介護を押し付けることが必ず本人の幸せに繋がるとは言えません。
介護士の正しさと認知症の方の思い
介護の世界では、正しいとされている考え方がいくつもあります。
例えば…
- 「可能な限り食べ物は口から食べる。」
- 「できるだけオムツではなく、トイレで排泄を行う。」
- 「昼と夜の区別をつけるために、着替えを行う。」
- 「入浴して身体を清潔にする。」
しかし、これらの介助を拒否されることも多々あります。
なぜ拒否されるのか、そこにどんな理由があるのかを探りながらケアをすることは重要です。
ただ、利用者本人がそれを望まない場合は、正しい介護を押し付けることが本人の幸せに繋がらないこともあります。
たとえば口から食べることを拒む場合、本人に食べたいという気持ちがあるのであれば、口から食べることを目標とした援助介入が必要です。
しかし、食べることが苦痛となっている場合は、たとえそれで栄養がとれて身体が健康であったとしても、それが本人にとって必ずしも幸せとはいえません。
入浴を拒否する認知症の利用者さんを無理やり浴場に連れっていって、大暴れしている方を相手に入浴介助をする必要はあるでしょうか。
時にその介護が正しい方法でなくても、認知症の方が自分の気持ちを尊重してくれたと思える方法を優先した方が良い影響を及ぼすことがあります。
価値観が影響する
認知症ケアは一時的な関りではなく、その人の人生に関わる分野です。
そのため、認知症ケアに携わる介護士の価値観や考え方が大きく影響することがあります。
「ご飯を食べるときは、テーブルとイスに座ってお箸やスプーンで食べる。」
「寝るときは、着替えてパジャマに着替えて寝た方がいい。」
仮に、このような価値観や考え方をあなたが持っていたとします。
人によっては、床でご飯を食べる人もいるでしょうし、海外には道具を使わずに手でご飯を食べる人達もたくさんいます。
わざわざ寝るときにパジャマに着替えない人もたくさんいるでしょう。
自分の価値観や考え方は、「それが全て正しい常識だから、他の人にも当てはまる。」と思いがちです。
その考え方を認知症の利用者さんに対しても押し付けてしまっていませんか?
自分の考える正しさが、他の人の正しさに当てはまるとは限りません。
あなた自身の価値観や、介護の常識に当てはめてケアをしようとしていないかを考えることが認知症ケアでは大切です。
社会性を強要されることがストレスに
認知症を患うことで、脳に障害が起こり「人としての社会性」が希薄になる傾向があります。
- 「嘘をついてはいけない。」
- 「人に暴言を言ってはいけない。」
- 「大声を出してはいけない。」
このような人に迷惑をかけるような行為や、社会一般で考えられているルールの概念が薄くなる方も少なくありません。
脳の障害から起こっているので、このような行為や行動を引き起こしているのは認知症という病気が原因です。
しかし、なんとか正しいことを教えようとして疲れ果ててしまう介護士や家族がたくさんいます。
特に家族の気持ちとしては、「しっかりしていたお母さんに戻ってほしい。」「穏やかで優しかったお父さんに戻ってほしい。」など以前の姿を取り戻して欲しいという気持ちが強く、厳しく接してしまうケースもあるのです。
このように、正しいとされている行動や行為を強制して説得することは認知症の方に対して大きなストレスになります。
介護士や家族と認知症の利用者さんとの関係が悪化するだけでなく、状態を悪化させることにもなりかねません。
「正しいことをさせなければいけない、こうでなくてはならない。」
という概念や常識、自分の持っている価値観にとらわれることなく対応することが重要です。
特に大事なのは、本人の世界観をできるだけ理解して柔軟に対応することが大切になります。
最後に
正しいことが認知症の方を不幸にしてしまうこともある!
- 介護の常識にとらわれない。
- ケアをする側の価値観を強要しない。
- 社会のルールを強要しない。
認知症ケアに正しさを求めた介護を続けていると、ケアをする側も利用者本人も大きなストレスになってしまいます。
社会性の低下は脳が引き起こしている障害です。
認知症の方の持っている社会性も当然一人ひとり違います。
重要なのは、その一人ひとりの持つ世界観をどれだけ理解して柔軟な対応ができるかです。
無理やり社会の常識に当てはめようとしたり、説得を繰り返したりすることは逆効果になります。
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