認知症の方の介護はとても難しく、介護する側の人間が頑張り過ぎて疲れ果ててしまうこともあります。
どうしてこんなに頑張っているのに上手くいかないんだろう。
どんなに優しくケアしていても、中々言うことを聞いてくれない。
そんな風に考えてしまい、認知症ケアにつまずくこともあるでしょう。
認知症ケアでは、ケアをする側の介護士の感情を安定させることが大切です。
このページでは、認知症のある利用者さんとの対応で疲れないための考え方をお伝えしています。
認知症の対応に疲れない5つのポイント
大きく5つの項目にわけて、認知症のある利用者さんの対応で疲れないためのポイントを紹介します。
1,認知症の方との距離感
『相手の気持ちに共感することが大切』と言われますが、認知症の方と同じ気持ちになる必要はありません。
認知症の利用者さんが悲しんでいたら、その気持ちに共感してその悲しみを理解することは大切ですが、同じように悲しい気持ちにならなくていいのです。
感情の起伏が激しく、怒ったり喜んだり、悲しんだりを繰り返す利用者さんを相手に、その時の感情にケアをする側の感情が左右されてしまうと精神的に疲れて安定したケアができなくなります。
認知症ケアで大切なのは、認知症の方の状態を一線を引いて客観的に判断する能力です。
しかし、ケアをする側の人の感情が不安定だと、相手を客観的に見ることができなくなります。
相手の感情によって自分の心が安定しないという方は、認知症の方と自分の間に心の距離を保つことを意識してみてください。
感情移入することは悪いことではありませんが、それでケアをする側の心が疲れ切ってしまっては良いケアもできなくなります。
適切な心の距離感を意識することで、認知症の方だけでなく自分自身のことも客観的に見る事ができるのです。
その結果、認知症の方への声掛けや対応も冷静に行うことができます。
認知症の方への対応は毎回疲れる…と思う人は、もしかしたら距離感が近すぎるのかもしれません。
2、ありのままの相手を受け止める
認知症の利用者さんに対して、「もっとこうしたら良くなる。」「ここを変えて欲しい。」と考えるのは逆効果です。
基本的には、「そのままの状態を受け入れる」というスタンスでいた方がケアをする側の心も安定します。
「認知症の方にも、できるだけ満足してもらえるケアを提供する」という考え方と「認知症の方をケアでもっと良くしたい」では、似ているようで異なる考え方です。
前者の方は、本人の意思を中心とした考え方ですが、後者だとケア側の都合で「もっとよくしたい!」と考えています。
例えば、入浴介助があまり好きではない認知症の方がいたとします。
その方は、週に1回入浴できれば十分と思っていますが、ある介護士はこの方にもっと清潔でいて欲しい!認知症があって入浴が嫌いでもその方がもっと良くなるはず!と考えてケアをするのは間違った考え方です。
もちろん、認知症の方が安心して落ち着いた生活を送るために、どうしたらいいのかを試行錯誤しながら考えることはとても大切なことでしょう。
しかし、自分達が困るから、周りの人達が嫌がるから、家族から言われているからといった理由で、認知症の方の行動を無理やり変えるのは本人中心のケアではありません。
先ほどの例えのように、入浴しない方が落ち着くと考えている人であれば、本人が望む時に入浴すれば良いだけです。
2、3週間入浴をしなくても人が死ぬことはありません。
しかし、2、3週間嫌がりながら入浴した記憶は「負の感情」として残ります。
なんだったか覚えてないけど、なんとなく嫌だ、不愉快だったという感情の積み重ねが介護拒否に大きく影響します。
無理矢理なにかを強要するケアは、介助をする介護士にもマイナス感情を与えてしまうので双方にとって良いことがありません。
重要なのは「今のままのあなたでも問題ありません。」と相手の状態を受け入れることであって、その状態をもっと良くしよう、変えてあげようと考えるのはケアをする側が疲れてしまう原因です。
認知症の方にあなたが「この人は自分のことを理解してくれる人で安心できる」と思ってもらえることを優先しましょう。
3、目標を高く設定しすぎない
認知症が進行するスピードは人によって違いますが、確実に進行していく病気です。
進行に伴い、今まで出来ていたことが出来なくなることも増えていきます。
認知症の利用者さんの目標を設定する時には、一人ひとりの認知症の進行具合や現在の状況、今後の予測、本人がなにを希望しているのかを考慮しながら目標を設定することが重要です。
例えば、入浴の拒否が続いている認知症の利用者さんの目標を設定する際に、「週に2回必ず入浴してもらい身体の清潔を保つ」というのは、高すぎる目標設定です。
「1週間に1回、清拭することができる。」
「月に2回入浴することができる。」
など、理想や建前を抜きにして現実的に考えて実現できる目標なのかを考えた上で目標設定をしましょう。
本人が望んでいない目標は、ケアをする側にも大きなストレスとプレッシャーを与えます。
高すぎる目標設定が認知症ケアに携わる介護士を疲れさせ、ケアの内容も雑になりがちです。
現実可能な範囲の目標を設定することで、ケアをする側の気持ちにも余裕が出てきます。
こうして小さな目標を積み重ねてクリアしていくことが、結果的に認知症の利用者さんへの安定したケアに繋がります。
認知症の方に対する介助が難しくて疲れた…と感じるようであれば、ケアの内容そのものを変えるのも有効な手段です。
4,ケアの結果に期待をしない
認知症の方の対応をしていると、さっきまで怒って怒鳴り散らしていた人に少し関わっただけで急に笑顔になってくれたりと、一時的ではありますが、ほんの少しのケアで劇的に状況が変化することがあります。
声掛けが上手かったのかな?
ボディータッチが安心したのかな?
自分に慣れてくれたのかな?
など、ケアが上手くいった原因を自分なりに考えることもあるでしょう。
もちろんその方法が、その方にとっての正解だったのかもしれませんが、たまたまかもしれません。
ケアの結果を認知症の方に期待することは、自分自身を追い詰めてしまうことにもなるんです。
前は上手くいったから以前の方法に変えてみよう、それでもダメだったらまた違う方法で…と介助に入るたびに変化を与えると認知症の方は混乱してしまいます。
認知症ケアで疲れないためのコツは淡々とやり続けることです。
たとえ変化があってもなくても、その方の慣れた方法、手順で変わらず丁寧に同じケアを繰り返す。
良い変化があると、そのケアが正解のようにも思えますが、認知症ケアにおいては変わらないことの方が大切です。
わかりやすい結果を求めたくなる気持ちはわかりますが、認知症の方に大きな変化が無いということ自体が大きな成果と言えます。
無理にこうしよう、ああしようと考えてケアをするのではなく、「今の状態を維持する」ことを考えてケアをすることで、介助する側もこれでいいんだと自信を持って介助に臨むことが大切です。
5、自分を責めない
認知症ケアは、上手くいかないことの方が圧倒的に多いです。
そして、真面目な介護士ほど自分のやり方が下手なんじゃないか、こんなに不穏になるのは自分のせいなんじゃないかと自分を責めてしまう傾向にあります。
慣れた介護士であっても、他の業務に追われていて思わず不適切なケアや言葉づかいをしてしまい、自己嫌悪に陥ることもあるでしょう。
プロとしてお金を貰って介護の仕事をしている以上、自分の良くなかった点があるのであれな、反省して次に活かす努力は必要です。
認知症に対しての知識が足りないと感じるのであれば、認知症の理解を深めるために勉強することも必要でしょう。
しかし、必要以上に自分を責める必要はありません。
ただ深く反省するよりも、「あの時に、どんな対応をすればよかったのだろう。」と次につながることを考えた方が有益です。
そして、良いケアをするにはケアをする側の心の安定は必須と言っても過言ではありません。
まとめ
ここまで、認知症ケアに疲れないためのポイントを5つに分けて紹介してきました。
- 心の距離感を大事に。
- ありのままを受け入れる。
- 目標設定は現実的に可能な範囲で決める。
- ケアの結果や変化に期待をしない。
- 自分を責めない。
認知症ケアで一番優先すべきことは、ケアをする側の介護士の心の安定です。
気持ちに余裕が無い状態での認知症ケアは不適切ケアを引き起こし、それが日常化して当たり前になると、虐待へと発展していきます。
他の人から見て完璧なケアをするのではなく、本人が少しでも満足してくれたのであれば、それが100点の認知症ケアです。
介護士としてケアの質の向上を図るのは大切なことですが、心の余裕をもってケアをすることを心がけましょう。
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